コモングラウンドコミュニティーは、ニューヨークでホームレスの問題に取り組む団体。古いホテルやアパートを買い取り、サポーティブハウス(ホームレスの自立を支援する半永久的住居)として再生している。代表のロザンヌ・ハガティ氏は、狭い空間を有効に活用する日本の家屋に強い関心を示し、実際に日本を訪れてはカプセルホテルや旅館などを見て回っている。鹿島やミサワホームといったゼネコン・住宅関連企業も訪問したという。
--日本の住宅に関心があると聞いた。どこに魅力を覚えるのか。
ニューヨークは土地が狭い。ホームレスのための住宅を提供し続けるためには、小さなスペースを上手に生かす方法論が必要になる。狭くても快適で、かつプライバシーを守れるような住居とはどういうものか。長い間、様々なリサーチを続けているけれど、いつも「日本」に行き当たる。「すべての道は日本に通じる」という感じ。私たちが求める創造的な空間利用のアイデアは、すべて日本の建築文化や日本の建築家から出てきている。例えば、障子や畳を使って1つの部屋を時間帯や季節に応じて多目的に使う文化は素晴らしいと思う。
--2回来日し、今年の7月に2週間、2年前には2カ月半も滞在したと聞いている。その成果を教えてほしい。
カプセルホテルから一般的な住居まで、あらゆる建物を見て歩いた。カプセルホテルやビジネスホテル、お寺の宿坊などには、実際に泊まってみた。ミサワホームや鹿島なども訪ねた。家具や電化製品にも興味がある。アメリカの製品は大きなものばかりだけれど、日本には小さくて機能のきちんとした製品が多い。こういうものは、私たちの作っているサポーティブハウスにピッタリだと思うし、利用していきたい。
日本の建築家とのコラボレーションも積極的に行っている。私たちの5番目のプロジェクトに当たる『アンドリュース』では、伴茂という日本人建築家を採用した。今はまだアイデアを詰めている段階だが、4種類用意する部屋のタイプのうち2種類は日本文化の影響を強く出したものにしようと話している。アパートというより、むしろ1泊7ドル程度で泊まれるホームレスのための暫定的な宿泊施設にする予定なのだが、ここにカプセルホテルでの体験が生かせると思っている。実際、カプセルホテル用の設備を手がけている日本企業との交渉も進んでいる。消防法の問題など、解決すべき点はまだ残っているが、ぜひ実現させるつもりだ。
▼みずほグループ企業が積極的に協力
--アンドリュースには、みずほフィナンシャルグループのIBJトラストカンパニーが210万ドル(約2億4000万円)のつなぎ融資をしたと聞いている。同社との関係について教えてほしい。
アンドリュースは、ホームレスや低賃金労働者が住みつくドヤで、権利関係も非常に複雑だった。何年もの間、買収の交渉をしていたけれど、思うようにはかどらずにいた。IBJが非常に低金利の融資をしてくれたことでようやく買収が実現した。融資だけでなく、寄付やボランティアも積極的にしてくれている。例えば、タイムズスクエアやプリンスジョージで開催する感謝祭のディナーパーティーには資金だけでなく、手伝いの人も派遣してくれている。
人的な支援はそれだけではない。活動をニューヨーク以外の都市にも広げていくに当たり、新しいプロジェクトに関わる人たちとノウハウを共有するために物件探しや経営方法のマニュアルを作成中だが、このプロジェクトにも手を貸してくれた。こういうことに精通したスタッフはコモングラウンドにはいなかったので、大変感謝している。
--米国には、NPOの活動を支える法制度が多くある。例えば、IBJの例で言えば、預金業務を行う地域に対して何らかの投資を求める連邦法「地域再投資法」の効果が大きいのか。
それだけではない。IBJの場合は、IBJトラストカンパニーの会長だった野口章二氏(現みずほコーポレート銀行専務)が、コモングラウンドの活動に深い理解を示してくれていることが一番の理由だと思う。米国に、NPOに対する寄付を促進する税制上の優遇措置が多くあるのは事実だ。NPOの評価制度も確立されており、企業が安心して寄付や融資をできる環境にある。法制度があることで、政府がNPOを重んじていることが企業に伝わるというメリットもある。
▼NPOへの協力で目に見える利益を上げられる
--日本では、寄付は所詮、寄付という考え方があり、そこから利益を得ようという発想はあまりない。それがNPOの成長を妨げる一因となっているように思うが、どうか。
日本もいずれ変わってくると思う。ビジネスの視点で寄付を検討する第三者と関わっていくと良いのではないか。NPOに協力することで、目に見える利益を上げることは可能だ。ホームレス支援ということで言えば、使っていない研修施設や社宅をホームレスのための住宅として活用すれば宣伝効果はとても大きいと思う。しかも、家賃収入も上げられる。
サポーティブハウスができて治安が安定すれば、小売店の進出のチャンスにもなる。例えば、タイムズスクエア周辺は、ほんの10年前まではポルノショップや安い土産物の店ばかりだったが、今ではこぎれいなレストランなどもでき、賑わっている。民間のアパート経営者は、家賃回収のことしか考えていない。だが、サポーティブハウスを手がけるNPOは、周辺環境の再開発も重要な使命と考えている。長期的な視点で、そういう部分を企業はもっと評価し、投資をすると良いと思う。
--日本のホームレス支援団体との交流も深めていると聞いた。マニュアルを作成中ということから考えて、コモングラウンドが日本に進出し、サポーティブハウスを作るのではないかと想像しているのだが。
今はまだそういうことは考えていない。自分たちのノウハウが生きるならと思って、講演などに協力しているだけだ。私が日本を訪れるだけでなく、日本からコモングラウンドに視察に来る人たちもいる。東京都や川崎市の職員も来た。印象的なのは、1度目の来日の時は『ホームレス向けの住居はどうやって作ればよいか』というハードウェアに寄った質問が多かったのが、2度目は、『職をどうやって与えればよいか』『精神面での援助はどのようにすればよいか』というソフト寄りの質問が増えたこと。ホームレスの支援は箱モノだけやってもダメ。彼らの質問はとても重要な視点だと思う。